敷金というのは、賃料の1~2か月分が相場です。少額な金銭にもかかわらず、敷金の返還については非常にトラブルが多いです。その理由については色々な考え方がありますが、私としては以下の2点が問題だと思っています。
○ 借主は貸主に対して、返還時に原状回復義務を負うのですが、「原状回復義務」の定義は借主が借りた当時の状態に戻すことを意味するのではありません。この点を勘違いする方が多いのではないかと考えています。
○ 構造的な問題なのですが、お金を返還するのが明け渡し後になるため、お金を返還するメリットが貸主側にはない(何らのペナルティが無い)のです。そのため、大家さんとしては一度受け取った敷金という現金を返還したがらないし、新たに入居者を入れるためのリフォーム費用として使いたいという気持ちがあり、敷金返還がなされない事例が多数あるのです。
敷金返還請求をする際は、どうして敷金が戻ってこないのか?という理由を確認することが大切になります。家賃の滞納や、原状回復義務の範囲内、有効な特約に基づくものであれば、それは返還請求できないからです。できればメールやLINEなど、証拠に残る形で理由の説明を求めましょう。精算書等が交付されているようであれば、その費目ごとに追求する必要あります。例えば、クリーニング費用とか畳交換費用などの記載を確認することになります。
1 ガイドラインに基づく確認
貸主が主張する敷金不返還の理由について、国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に照らしての検討が必要になります。ほとんどの裁判例は、このガイドラインに基づいて判断されます。つまり、大家さん(貸主)の主張する敷金不返還の理由が、このガイドラインに照らして誤っている・基準から外れている場合には、裁判所も返還を認める可能性が極めて高いものになります。
このガイドラインに従えば、例えばフローリングのワックスがけは「通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、賃貸人負担することが妥当」とされていますので、このような費用が計上されている場合には、その不当性を主張することになります。
また「部屋の壁クロスの一部しか汚れていないのに、部屋全体のクロスを交換することは原則不当となる」ということも記載されています。
2 交渉請求の手続
請求方法としては、貸主への手紙・電話・訪問の3つの手段があります。どの手段も交渉なので一長一短と言えるでしょう。
一般的に弁護士は、まず手紙(書面)で自分の主張を記載し、その後電話・訪問で請求するという手順になることが多いです。いずれの方法を取るにしても、敷金の返還を求める場合、相手に対して粘り強く交渉することが大切です。
しかし貸主側である大家さん・不動産業者は、返還を求められても「とりあえず断っておこう」「少額だから泣き寝入りしてもらおう」という発想になりがちです。しかしこれは、大家さんや不動産業者が悪いわけではなく、お金を持っている側の構造的な発想です。
そのため、手紙の送付や電話をするにしても、数回の連絡だけでは諦めずに対応してもらう工夫が必要です。その際、請求する理由を強く述べる必要があるでしょう。
粘り強く交渉しても敷金が戻ってこない場合には、裁判所に訴え出る手続が必要になります。大家さん(貸主)と見解が違う場合には、話し合いをしても解決しません。
ところが敷金返還請求はかなり少額になることが多く、弁護士に依頼しても費用倒れになる場合があります。そのような場合、費用倒れでもいいから相手にきちんと請求するか、または自分で手続を行うのかを検討することになります。
裁判所において、60万円以下の請求をする場合には、1回の期日だけで終了する少額訴訟という手続が準備されています。他にも、民事調停や弁護士会のADR(裁判外紛争解決手続)等、代理人をつけなくても本人のみで簡単に手続を行うことができる話し合いの場も利用できます。いずれの手段も、法的知識のある第三者が間に入って解決案を提示してくれますので、相手方との直接交渉よりも解決する可能性が高いものと言えます。
以上のように、敷金の返還のためには努力が必要です。店舗の保証金のように、数百万円単位のものであれば裁判もよくありますが、通常、敷金は多くて30~40万円くらいのため、裁判をためらう方も多いです。しかし裁判以外の簡易な手続も準備されていますので、あきらめずに努力・請求していくことが大切です。
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