あおり運転が注目されるきっかけになったのは、東名高速道路における有名な事故でしょう。
この事故は、PAでの駐車方法を注意された男性が、注意してきた車をおいかけてあおり運転の末高速道路の走行車線に車両を停車させた結果、トラックが追突してあおられた側の運転手とその妻の2名が死亡した事故です。なお、この事故では結局犯人に懲役18年の実刑が下されています(犯人側控訴)。18年と書くと短く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、殺人でも10年前後の刑になることもあることからすると、従来の裁判例と比較して極めて重い判決だと思います。
それ以外にも、2019年8月頃に発生した茨城県の常磐自動車道路であおり運転の末に男性を殴って怪我をさせた事件を思い出す方もいらっしゃるでしょう。他にもあおり運転による死亡事故やトラブルは多く発生しています。
このようなニュースが報道されると「自分もいつかあおり運転されてしまうのではないか?その時はどうしたらいいのだろうか。」と不安になられる方も多くいらっしゃるかと思います。本稿では、弁護士の立場からあおり運転をされたときの対応についてお伝えさせて頂きます。
ただ、初めてにお伝えしておきますが、あおり運転をされたときにはまずは自分の安全を最優先に考えてください。これが最も重要です。
あおり運転は、一般的には自動車などの運転中に「自動車などの運転中に車間距離を極端に詰めたり幅寄せを行ったりする行為」と定義されています。(Wikipedia参照)
前方を走行する車に対して行うことを指すのが普通で、態様としては、異常に車間距離を詰めるもの、クラクションを鳴らしながら走行するものなどがあります。特に危険なのは、わざと前に出て、周囲を走り回り、停車させようとする運転方法でしょう。
繰り返し述べることになりますが、このような運転に遭遇したらまず逃げることが大切になるでしょう。法律は、現場の悪意に対しては全くの無力であり、まずは安全を確保することが先決でしょう。通常、あおり運転をされただけであれば、車線を変更して進路を譲れば問題ありません。問題となるのは、運転者を停車させて文句を言おうとする人だと思われます。
個人的な見解として、停車後に逃げることができなければ、車の中から出るべきではありません。すぐに警察に連絡することが大切です。どのような行為をされても、停車することは仕方ないにしても、下車は絶対にしてはいけません。
あおり運転は、煽る方が違法なのは言うまでもありません。しかし、あおり運転は報復的行動として行われることが通常です。そのため、報復されるような行動をしないことも大切になります。
具体的には
①無理な割り込み・車線変更はしない
②不必要にクラクションを鳴らさない
③追い越し車線で低速走行をしない
などの運転マナーを守ることが大切です。
あおり運転を受けたことで、相手に損害賠償請求が可能でしょうか?
当事務所では、あおり運転及び路上で停車を要求した相手に対して、慰謝料を請求した事例は存在します。この件は和解しましたが、あおり運転を受けたというだけで慰謝料が請求できるかというと、かなり疑問があります。
すなわち、あおり運転は行為としては極めて危険であることは間違いないですが、裁判で慰謝料というと、原則として身体に発生した傷害に対するものになります。あおり運転を受けても、その場で終わりということであれば、さほど重大な問題が発生しているとは裁判所から評価されないかもしれません。
しかし、その実情としては、あおり運転は命の危険をともなうものですから、そのような危機に陥った際には、一定程度の慰謝料が認められえると考えられます。
高速道路、バイパス、幹線道路等交通量が多く停車禁止の道路に停車させられたケース、ただ単に車間を詰めるだけではなく前方に出て進路妨害をされるなどの悪質な行為があったケースなどは、慰謝料請求ができる可能性があるといえるでしょう。
実際に、当事務所で受任した交通事故事件の中で、被害者が負傷しなくとも、命の危険を感じるような重大事故であった場合には、保険会社から慰謝料の支払が認められた事案もがあります。その他、トラックが自宅に突っ込んできた場合、物損と言っても重大な損害が発生するリスクがあるケースは、慰謝料が裁判所で認められる場合もあるようです。
将来的に慰謝料を請求するためには、ドライブレコーダーを搭載し、証拠を残すことがとても重要になります。また、ドライブレコーダーが無くても、同乗者にスマートフォンで撮影・録音をさせることができれば証拠としては極めて有力だと思われます。
あおり運転を受けてしまったら、まずは逃げること、身の安全を一番に考えましょう。危険に立ち向かう勇気より、危険を回避する勇気が大切です。
「僕が初めてナイフを見た時、カール・ルイスより早く走って逃げた」というのは『GO』(金城一紀 著)という小説の中の一節です。
主人公の友人は、正義感が強くてまじめな高校生。駅のホームでナイフを持った不良が暴れているのにそれを制止しようとして、刺されて死んでしまいます。主人公は喧嘩慣れしているが、そんな主人公ですらナイフからは逃げる。不要な危険に立ち向かうよりまず命を守るべきだった、と友人の死を悲しむのです。
法律は、現場で命を守ってはくれません。クルマという凶器を振り回す相手に立ち向かわず、まずは逃げる勇気が大切です。慰謝料の請求は、逃げた後に安全になってから当事務所にご相談ください。
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