令和6年7月11日、旧統一教会の元信者とその家族が、教団に対して支払った献金を返還するよう求めていた裁判で、最高裁は、元信者が署名した「教団への返金を求めない」との念書は「無効である」との判決を下したとの報道がありました。
これは「不起訴の合意が、公序良俗に反して無効である」という判断です。これにより、旧統一教会に限らず、宗教法人への献金を事後的に返還請求できる可能性が取りざたされています。
ただしこれは、本件の事情(元信者の年齢や生活状況、献金総額など)から不起訴合意は無効であるとしているのであり、返還請求しないという合意のすべてが無効であるといっているわけではありません。
もっとも、この判決で重要なのは、ただ単に不起訴合意が無効であったということではなく、自由意思による献金であったとしても、献金のための勧誘方法等によっては違法となる可能性が示唆されている点です。
不起訴合意が無効であったとしても、個別の献金行為に違法性がなければ、当然に返還請求はできません。実際に当裁判の控訴審では、亡くなった元信者の自由意志は阻害されていないとして、献金が有効と判断しています。最高裁では、その点について以下のように判断しています。
「本件においては、亡Aは、本件献金当時、80歳前後という高齢であり、種々の身内の不幸を抱えていたことからすると、加齢による判断能力の低下が生じていたり、心情的に不安定になりやすかったりした可能性があることを否定できない。また、亡Aは、平成17年以降、1億円を超える多額の本件献金を行い、平成20年以降は、自己の所有する土地を売却してまで献金を行っており、残りの売得金を松本信徒会に預け、同信徒会を通じてさらに献金を行うとともに、同信徒会から生活費の交付を受けていたのであるが、このような献金の態様は異例のものと評し得るだけでなく、その献金の額は一般的にいえば亡Aの将来にわたる生活の維持に無視し難い影響を及ぼす程度のものであった。そして、亡Aの本件献金その他の献金をめぐる一連の行為やこれに関わる本件不起訴合意は、いずれも被上告人家庭連合の信者らによる勧誘や関与を受けて行われたものであった。 これらを考慮すると、本件勧誘行為については、勧誘の在り方として社会通念上相当な範囲を逸脱するかどうかにつき、前記アのような多角的な観点から慎重な判断を要するだけの事情があるというべきである。しかるに、原審は、被上告人家庭連合の信者らが本件勧誘行為において具体的な害悪を告知したとは認められず、その一部において害悪の告知があったとしても亡Aの自由な意思決定が阻害されたとは認められない、亡Aがその資産や生活の状況に照らして過大な献金を行ったとは認められないとして、考慮すべき事情の一部を個別に取上げて検討することのみをもって本件勧誘行為が不法行為法上違法であるとはいえないと判断しており、前記アに挙げた各事情の有無やその程度を踏まえつつ、これらを総合的に考慮した上で本件勧誘行為が勧誘の在り方として社会通念上相当な範囲を逸脱するといえるかについて検討するという判断枠組みを採っていない。そうすると、原審の判断には、献金勧誘行為の違法性に関する法令の解釈適用を誤った結果、上記の判断枠組みに基づく審理を尽くさなかった違法があるというべきである。」 参照元「令和4年(受)第2281号 損害賠償請求事件(令和6年7月11日 第一小法廷判決)」よりhttps://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/196/093196_hanrei.pdf
つまり最高裁は、仮に信者が自由意思で献金しているにしても、さまざまな事情を考慮して違法性を判断しろ、と言っているわけですね。高裁の判断は、総合考慮ではなく自由意思であるという点のみをもって判断しているようです。
本件では、元信者が自宅を売ってまで献金し、かつ、自宅の売却額を信徒会に預け、そこから生活費をもらうような生活をしていたという客観的事情からすると、違法の可能性が濃厚、ということです。
この判決により、宗教団体への献金の返還請求が可能かどうかについての一定の判断枠組みができたと評価してもよいかと思います。もしこうした問題にお悩みの方は、一人で抱え込まずに弁護士までご相談ください。何か力になれることがあるかもしれません。
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