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執筆者の写真家頭 恵

労基法上の労働時間とは?


 「労働時間」という言葉は、法律上での「労働時間」とされる時間と、日本語的意味での「労働時間」は少しだけ概念が違います。


 法律上の「労働時間」は、「使用者の指揮命令下にある場合」と定義されます。これは、日本語的意味の「労働」をしている時間以外の時間も「労働時間」になる可能性があるということです。

 

 例えば労働者が、着替え、トイレ休憩、短時間のインターネットサーフィン、コーヒー休憩、電話番をしながらマンガを読んでいる、朝礼や終礼、事業所間の移動(直行直帰なら労働時間ではない)といった行為をしている間、日本語的意味の労働時間とは言えませんが、使用者の指揮命令下にある以上は、法律上「労働時間」となります。


 労働時間の定義が上記のようになったのは、いわゆる「三菱重工業長崎造船所事件」という最高裁判決によるものです。この最高裁判決によって、労働時間は以下のように定義されることとなりました。


 “労働者が会社に滞在している場合、業務命令が無く明確に業務外の時間と言えなければ、原則として労働時間と定義される。”

 

 このようになった理由は、次のとおりです。


 “会社が労働者に対して義務付けておきながら、これは労働時間ではないという合意が就業規則や労働契約等で決められるとすると、労働時間の認定がしにくくなる。労働時間が長すぎると会社に刑罰を課すという法律の性質上、客観的に認定しやすいものである必要がある。

 また、会社は、労働者が会社内で不要(と会社が考える)残業をしていたり、ネットサーフィンをしている場合にはそれをそれらを否定して強制的に帰社させることができる権限を持っているので、それを行使せずに労働者を会社にとどまらせている以上、残業について黙示の業務命令があったものと評価できるからである。”


 前述の「法律上の労働時間」として挙げた例では、コーヒーやタバコ休憩に関しては、会社が禁止することもできることなので、これを事実上労働者が取っているからと言って、指揮命令下から外れたということはできないのです。


 会社にいる場合であっても、明確に業務命令が無く、労働と無関係な行為をしている場合には、労働しているとは評価されません。


 ① 出勤・退勤の時間

 上記の「三菱重工業長崎造船所事件」でも、会社の敷地内に入ってから更衣室に行くまでの時間と、更衣室を出てからの時間は労働時間ではないと認定しています。これは、あくまで通勤の時間であって、指揮命令下ではないとの評価です。

 ※移動時間については、それだけで記事も書けるので、ここでは省略します。


 ② 休憩時間

 労働者が会社にいる場合でも、完全な自由が保障されている休憩時間は、労働時間ではなありません。ただ電話が鳴ったら出なければいけないとか、来客対応しなければならないという時間は、コーヒーやタバコ休憩と同じく、労働時間となります。


 ③ 明示で残業を拒絶した場合~残業の許可制について

 残業を許可制にしている場合、労働者が無断で残業した場合については業務命令が無いことが明白であるから、会社にいても労働時間とはなりません。しかし、実際にはこの許可制の運用が雑であった場合には、労働時間と認定される可能性の方が高いです。

 例えば、就業規則には「許可制」と記載されているが、実際の運用方法が全く決まっていない場合等である。

 タイムカードで明らかに毎月残業時間があることを把握しながら、残業許可の届出をさせていないような場合には、事実上残業を黙認しているとみなされることになります。


 ④ 業務終了後の時間

 「三菱重工長崎造船所事件」では、作業着を脱いだ後、手洗い・入浴を行って通勤用の服に着替えていましたが、作業服を脱いだ後の時間は労働時間とはなりませんでした。

 これは、手洗いや入浴を会社側が義務付けていなかったためです。もし義務付けていたならば、労働時間になったと考えられます。個人的見解からすると、造船所での業務後は汚れた状態であると推察され、そのまま自宅に帰れというのはあんまりだと思えてなりません。しかし客観的に労働時間を確定するべきである以上、手洗い・入浴が義務付けていないならば、労働時間ではないとの評価になったのだと思われます。


 つまり、業務終了後30分間ネットサーフィンをして、その後帰宅しているというような場合には労働時間とはならないと考えられます。ただ、そのネットサーフィンの後に労働をしている場合には、当該ネットサーフィンの時間を特定・立証し、それが業務に関連性が無いものと評価できない限りは、ネットサーフィンの時間も含めて労働時間と評価される可能性が高いと思われます。




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